物流業界を惑わす“水屋”神話!
多重下請け是正が招く運送会社の崖っぷち
運送業界の根深い恨み
運送業界では、元請事業者に対する下請事業者の恨みは根強い。
筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)の記事にも、
「諸悪の根源は元請の中抜きだ」というコメントが
多く寄せられている。下請構造と無関係の記事にもそうした
声があるのは、恨みの深さを示している。
「10トントラック = 10トン積める」は大間違い!
それを知らない荷主もいるし、知ってて“過積載”依頼の
荷主もいる現実
改正貨物自動車運送事業法では、下請けを二次までに制限する
努力義務が盛り込まれた。この方針は、全日本トラック協会が
2024年3月に提言したものだ。提言は、特にトラックを
持たず運送仲介だけを行う
「水屋」
と呼ばれる利用運送専業事業者・取次事業者を厳しく批判している。
批判の要点は、水屋が無責任に横流しをし、採算無視の低運賃で
実運送事業者を使うため、運賃相場を引き下げている点だ。
提言はすべての水屋が問題ではないと断っているが、
特に個人ブローカーに近い水屋には
「無責任な中抜きをする者」
がいるのも事実である。
中抜き構造の光と影
水屋は、トラックを持つ運送事業者と、荷主であるメーカー・
小売・卸の双方に太いコネクションがなければ務まらない。
筆者が取材してきた水屋のなかには、個人ブローカーに
近い人物も多い。意外なことに、
「大手物流会社のシステム子会社出身者」
が少なくない。運送業界に詳しい人は「運送会社出身が多いのでは」
と思うかもしれない。
たしかに、利用運送の担当者が独立して水屋になる例もある。
しかし、このタイプは起業後に失敗するケースも多い。
原因は古巣とのバッティングだ。前職のコネクションを
使って営業すると、「ウチの仕事を奪った」と
トラブルになりがちである。
一方、システム会社出身者は、荷主・運送事業者の双方と密接な
関係を築いているうえ、古巣とビジネスが競合しにくい。
そのため、水屋として独立しやすい土壌がある。
仮に1運行あたり2000円を中抜きし、月に30台を25日
稼働させれば、売上は150万円になる。元手がほとんど要らず、
個人でも利益が出やすいモデルだ。こうして物流業界には、
「年収数千万円」
を稼ぐ水屋の話が都市伝説のように語られている。
現実はそこまで甘くないが、「中抜きだけで数千万円」との
印象から、水屋は嫉妬と羨望の対象になっている。
多重下請け構造の誤解
一方、妬まれる水屋は「中抜きが嫌なら、ウチに頼らず自分で
荷主を探せばいい」と主張する。このいい分には一理ある。
2024年8月23日に国土交通省が開催した
「第1回トラック運送業における多重下請構造検討会」では、
関連する実態調査が公表された。
●下請けを使う側の理由
下請運送事業者を使う理由は、「自社のトラック(ドライバー)が
足りないから」「突発的な運送依頼があったから」がともに約6割。
「他社を利用したほうが自社で運行するよりも安いから」
という理由も2割強ある。(複数回答可)
●下請けとなる実運送事業者側の理由
6割弱が「仲間の事業者を助けるため」、
次いで「荷主に直接営業をすることが困難なため」が
約2割で続く。(複数回答可)
繰り返すが、水屋が成立するのは、荷主と運送事業者の双方に
強いネットワークを持つからである。情報力と営業力こそが
水屋の武器であり、これが下請事業者に欠けている。そもそも
・中抜きされる
・運賃が安い
は同義ではない。多重下請構造の本質的な問題は、実運送事業者が
安値で仕事を請けざるを得ない状況にある。
適正な運賃が支払われていれば、中抜きそのものが問題とは限らない。
実際、相場以上の運賃を下請けに支払う水屋も存在する。
「なのに、『中抜きしやがって』って陰口をいわれるのは
おかしくないですか」
これは取材で聞いた水屋の声だが、その通りだと感じた。
もちろん、責任を果たさず中抜きしかしない元請事業者は
批判されるべきだ。ただし、自らが下請けに甘んじている
理由を直視せず、上だけを批判する下請事業者にも問題がある。
だからこそ、多重下請構造の根本に踏み込まないまま
「構造解消」だけを掲げる改正事業法や政府の姿勢には
違和感を覚える。
自立困難な運送現場
「多重下請構造是正のために2次下請けまでに制限を行えば、
仕事が得られず路頭に迷う運送会社が多数出てくる。
国の方針としては『こういった経営力のない運送会社は
淘汰されるべき』ということなのでしょうが、
それでよいのでしょうか」
官民が集まるある会合で、中堅運送事業者の社長がそう語った。
法律により、半ば強制的に下請構造が2次までに制限されたら、
何が起きるのか。下請の立場にある運送会社の経営者たちは、
その影響を真剣に考えているだろうか。
例えば、これまで4次下請けだった事業者は、法改正後に
1次や2次に昇格できるのか。それとも仕事を失うのか。
最近、
「水屋から『直荷主と取引してほしい』と頼まれた」
という話を耳にするようになった。一方で、その誘いを断り、
従来通り水屋を通じて仕事を受ける道を選ぶ会社もある。
ある下請運送事業者はこう語る。
「水屋からは、スポット運送案件を含め、他にもいろいろな
仕事を頂いています。
直荷主案件は魅力的ですが、水屋とのつながりが薄れ、
結果として水屋経由の仕事が減ってしまうことが怖いです」
飼育された鷲は、野生に戻されても餌を取れず死ぬという。
下請運送事業者にも、同じことがいえるのではないか。
構造上の最大の課題は、下請けの立場でなければ仕事を
得られない事業者の存在だ。
こうした事業者の経営力を高めないまま、形式的に2次下請けまでに
制限すれば、倒産が相次ぐ可能性がある。
多重下請の淘汰圧力
日本では以前から、運送業界に限らず中小企業が多すぎることが
構造的課題とされてきた。実際、日本企業の99.7%は中小企業であり、
生産性は低い。
中小企業庁の調査によれば、「純付加価値 ÷ 従業者数」で算出した
労働生産性の中央値は、
・大企業:605万円
・中規模企業:315万円(大企業の52%)
・小規模企業:168万円(大企業の28%)
となる。これが日本の労働生産性が先進国の中で低迷する一因
となっている。運送業界の多重下請構造の是正は、
・経営力の乏しい中小事業者の淘汰
・M&Aによる新陳代謝
を招くだろう。だが政府の方針からは、運送事業者の経営能力を
底上げし、育成しようという発想は見えてこない。
水屋の中抜きを批判する下請事業者は、自らが淘汰される側にある
現実を認識し、発想を改めるべきだ。
多重下請けの価格歪み
政府による多重下請構造の是正には、別の側面もある。
2025年6月、改正貨物自動車運送事業法が公布された。
2028年6月までに「適正原価」の設定とその遵守が義務化される。
これは事実上、最低運賃の強制を意味する。
多重下請が是正されなければ、運賃相場は不自然に上昇し、
物価高につながる恐れがある。適正原価は実際に運送を
担う事業者に適用される。一方、水屋が荷主に請求する金額は、
必然的にその適正原価よりも高くなる。
結果として、中間マージンが膨らみ、市場価格全体を
押し上げる構造となる。
現時点では、下請構造の制限は2次までとする「
努力義務」にとどまる。だが政府は
「元請け憎し」
の世論を背景に、是正の流れを加速させるだろう。
筆者は、こうした是正方針そのものを否定しているわけ
ではない。批判しているのは、
「下請けに甘んじざるを得ない実運送事業者が存在する」
という、本質的な課題の解決がなおざりにされている点である。
政府の物流革新政策は、規制に偏っている。規制先行の改革では、
業界の疲弊を招くだけだ。それよりも、
「経営の質を高める施策」
が必要だ。物流DXなどの構造的な改革を推進し、
事業者の育成を軸に据えるべきである。
(坂田良平(物流ジャーナリスト))
【引用元:Merkmal】
https://carview.yahoo.co.jp/news/detail/b599f823df0bef05b19a48aa0aa33c3515786a13/
多くの業界で「水屋」の存在はあるかと考えます。
水屋が自分だけの利益を考えて下請け業者が
利益も取れない価格で仕事をさせているならば
問題ですが、そうでない場合も存在するのが事実かと。
下請け業者が自らの基準で提示した金額に上乗せして
差益で儲ける分には3社ともにWINかと考えます。
トラックが見つからない荷主と仕事を見つけれない運送会社は
存在するのが現実なのでその部分を解決する事で
利益を得るのは問題ないと感じます。
3者の力関係のバランスが取れているならばOKかと。
これが下流にかけて圧力によりバランスが崩れるとNGです。
ちゃんとやっている人たちに影響が出るのはダメだと考えます。

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