法改正の波で明暗分かれる「法律依存経営者」のリスク
物流法改正と業界革新
「物流の2024年問題」をはじめとする物流クライシスへの
対策として、物流関連法の整備が加速している。
2024年5月には「物流革新関連整備法」が公布され、物効法と
貨物自動車運送事業法が改正された。
この法律は2024年10月から順次施行され、荷主や元請事業者への
監視が強化されるとともに、違反行為の防止も図られる。
さらに2025年6月には、通称「坂本新法」と呼ばれる
トラック事業適正化関連2法が成立した。
事業許可の更新制導入などが盛り込まれている。
長らく運送業界は、
「内憂外患(ないゆうがいかん)の二重課題」
に悩まされてきた。外患は荷主による事業者への圧力や
不当行為である。内憂は、コンプライアンス違反や不当に低い運賃で
仕事を請け負う事業者、中小を買い叩く元請事業者など、
同業者による不公正行為だ。
一連の法改正は、これらの懸念を完全ではないが
大きく軽減する効果が期待できる。
荷主や元請事業者には、輸送の効率化や運送事業者との取引適正化が
義務付けられる。運賃だけでなく、荷待ち・荷役などの付帯業務も
契約書に書面化し、公布・保存する義務が課される。
荷待ち・荷役時間は1運行2時間ルールで抑えられる。
下請法も改正され、優越的地位の濫用による
過剰要求が制限された。
多層下請構造は原則2次下請けまでに制限される。
これまで4次、5次の下請けで中抜きされ、安い運賃で
働かされてきた事業者も、適正運賃を受け取れる可能性が高まる。
また、全日本トラック協会の元会長で現在最高顧問の
坂本克己氏が尽力した「坂本新法」こと
トラック事業適正化関連2法では、不適切事業者の排除や
適正原価での経営が可能な市場環境の整備が進む。
具体的には、
・事業許可更新制度(5年毎)
・適正原価を下回る運賃の禁止
・営業許可を得ていない事業者(白トラ)の利用禁止
などが盛り込まれた。
運送業界の“安泰神話”
先日、60代の運送事業者社長と雑談をしていたときのことだ。
「正直にいえば、ここまで運送事業者を守るための
法整備が進むとは思わなかった。これから法律を守った
ホワイトな経営をしていれば、自ずとわれわれは安泰だろう」
と話し始めた。ここまでいう人はまだ少数だと思う。
しかし政策に期待する運送事業者は確実に増えてきていると感じる。
2023年3月、当時の岸田内閣が物流革新政策を打ち出した際には、
「もともと運送事業者を苦境に陥れたのは、1990(平成2)年に
施行された物流2法による政策の失敗(認可制から届出制への変更)
であり、今回も信用はできない」
と断言する事業者もいた。筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)の
肌感だが、特に事業許可更新制度や適正原価の導入に
関しては、これは運送業界を変えるかもしれないと期待を
寄せる事業者や物流関係者が増えてきたように思う。
しかし、法律さえ守れば安泰という考え方は非常に危険だ。
今回の一連の法改正について、政府は明言しないものの、
「増えすぎた運送会社を適正数まで減らす」
という思惑があると考えるべきだ。
これは、1990年の物流2法改正で約4万社だった運送事業者が、
現在は約6万3000社に増えていることを背景としている。
運送業界自身も、この調整を望んでいる部分がある。
運送業界淘汰の条件
では、今後淘汰されていく運送事業者とは、どのような
会社だろうか。まず、「法律を遵守できない運送会社」
という観点から考える。
1.長時間労働を是正できず、労務コンプライアンスを守れない会社
2.事業停止や車両停止などの行政処分を受けたことがある会社
3.ドライバーを含む従業員に適正な賃金を支払っていない会社
(最低賃金遵守や荷役作業の対価支払いを含む)
4.安全管理体制が実効性を持たない会社
5.債務超過である、直近3事業年度が連続して赤字、
税金や社会保険料を滞納しているなど、経営が健全でない会社
1~3は、多くの人が想像するブラック運送会社に該当する。
前述の坂本氏は、2023年年頭所感で
「悪貨が良貨を駆逐することのないよう公平公正な競争の基盤を
確立しなければならない」
と述べている。運送業界内部でも、ブラック運送会社の
排除を望む声は大きい。
では、4および5はどうか。4については、点呼や
日常点検に加え、運輸安全マネジメント
(安全方針の策定、目標設定、評価改善プロセスなど)
が考慮される。
さらに厄介なのは、5の経営の健全性(財務健全性)だ。
2023年度決算では、運送事業収入を黒字化できた事業者は
営業損益ベースで51%にすぎない。
そのため、多くの会社が淘汰の対象となる可能性がある。
多重下請構造の試練
事業許可の更新ができないだけではなく、物流関連法の影響で
経営が立ち行かなくなる運送事業者も出てくるだろう。
当媒体では何度か記事にしてきたが、多重下請構造の是正は、
これまで下請けの立場に甘んじてきた運送事業者にとって
試練となる可能性がある。勘違いしている人も多いが、
・多重下請構造が制限されること
・下請け事業者が救われること
は同義ではない。
端的にいえば、下請けに甘んじるのは営業力が不足している
会社が多い。営業力のない会社が仲間の運送事業者に頼れず、
「自分で仕事を探せ」と突き放されれば、
経営は立ち行かなくなる。いわば
「野垂れ死に状態」
に陥ることも想像に難くない。ドライバーに長時間労働を
強いる運送事業者のなかには、「ウチが運ばなければ荷主が困る」
という経営者もいる。例えば地方の青果や鮮魚を運ぶ会社では、
「鮮度が落ちたら価値が下がる」として、コンプライアンスを
守れば3日かかる輸送を2日で行うケースがある。
こうした経営者ほど、
「周りの運送事業者は長距離から次々に撤退している。
だから私が長距離輸送を守らなければならない」
という。善意はあっても、経営者としては失格である。
デジタル化で競争力維持
デジタル化に対応できない運送事業者は、仕事を失う可能性が高い。
荷主にも物流効率化の圧力がかかるため、デジタル化に協力
できない事業者は切られる可能性がある。
ある荷主の物流DX会議にオブザーバーとして参加したことがある。
この荷主は伝票のペーパーレス化や荷待ち・荷役時間の計測に
課題を抱えていた。改善には、ドライバーのスマホ・タブレット
利用や、運送事業者の運行管理システム利用が必要だった。
会議では現状維持派とDX推奨派が対立した。
現状維持派は「ITが苦手な協力会社を考えると、デジタル化
ありきでの改善は難しい」と主張。
DX推奨派は「それでは物流DXは進められない」と反論した。
結局、デジタル化に協力しない事業者との取引を解消してでも、
物流DXを進めるべきとの結論に落ち着いた。
結論は明快だった。
「優先すべきは自社の生き残りである。協力事業者の事情を
慮るあまり、自社の物流改善が滞り競争力を失ったり、
法律遵守が困難になるのは本末転倒である」
運送業の未来を議論
2025年8月26日、中小運送会社経営者や国会議員、有
志の中央省庁担当者らが集まる「これからの運送業を考える有志の会」
が開催された。特別講演を行ったのは、全日本トラック協会・
坂本最高顧問である。
坂本氏は日本国憲法第25条の生存権を引用し、
「すべてのトラックドライバーが生存権で保証されたような
生活を営めるようにしなければならない」
と強調した。さらに
「今回の法改正によって仏(法律のたとえ)はできた。
しかしこれからは皆で力を合わせて魂を入れていってほしい」
と述べ、事業者や現場レベルでの努力に期待を示した。
冒頭で触れたように、「法律さえクリアすれば安心だ」と
楽観視する人が増えている。だが一番多いのは、
自社の経営に直接関係する法改正に無関心な運送従事者である。
こうした無関心層は、ある意味で最も危険である。
変化の時代では
「現状維持 = 退化」
であり、情報収集を怠れば「事業許可の更新ができない」と
窮地に陥る可能性がある。
特に経営者は、業界に訪れた変化に対して大きなかじ取りを
行う責任を負う。今回の物流関連法改正は、悪行事業者だけでなく、
変わろうとしない事業者も淘汰される可能性があることを、
ぜひ多くの運送事業者に知ってほしい。
(坂田良平(物流ジャーナリスト))
【引用元:Merkmal】
https://carview.yahoo.co.jp/news/detail/b4b85cf0af53e7c28427650008d31f115dd4021e/
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